制限行為能力者(基本編その2)*行政書士試験‐民法*
みなさんこんにちは、堂本です。
前回に引き続き、制限行為能力者についてお話していきます。
今回は制限行為能力者の保護者の権限を中心に進めていきましょう。
まずは保護者が持っている基本的な権利です。一部例外がありますが、次の4つの権利を持っていると理解してください。
・同意権
・代理権
・取消権
・追認権
試験対策的にはまず、それぞれの権利の内容についてきちんと知っておくことが重要です。順にみていきましょう。
・同意権
保護者は制限行為能力者のために、同意、つまり「これこれの法律行為については一人でやっていいよ!」と許可してあげる能力を持っています。
制限行為能力者は、単独で法律行為をするための判断能力が不十分だと考えられています。そのため判断能力がある人に「この法律行為はあなたがやっても大丈夫だ」と太鼓判を押してもらって、初めて単独で法律行為ができるというわけですね。
・取消権
制限行為能力者のみんながきちんと保護者の同意をもらってから法律行為をするとは限りません。皆さんも子供のころ、保護者に内緒で買い物をしたことがあるのではないでしょうか。
そんな風に、制限行為能力者が保護者の同意を得る前に法律行為をしてしまうことも十分に考えられます。そのような場合に、保護者はその法律行為を取消すことができます。これが取消権です。(もっとも、取り消すことができるというだけで、絶対に取り消さなければいけないわけではありません。認めてあげることもできます。)
一方で、制限行為能力者が同意を得てからした法律行為は取消せません。
想像してみてください。
太郎「お母さん、10万円の時計なんだけど、買ってきていいよね?」
母「うん、いいわよ」
10分後
太郎「お母さん、さっそく買ってきたよ」
母「ちょっとあんた!何やってんのよ!今からお店に行って取消してくるわ!」
こんなことがOKだったら同意の意味がないですよね。というか保護者ポンコツかよって話になります。
そんなわけで、ちゃんと許可をもらってした法律行為は取消しができないということに注意してください。
また、もともと同意が不要な行為についても、取消しができません。同意が不要=リスクが低いということですから、取消を認めるまでもない、と考えておけばよいでしょう。
・代理権
制限行為能力者は保護者の同意があれば単独で法律行為が出来る、という話でしたが、果たしてそれだけで十分でしょうか。
同意権というのは保護者が太鼓判を押すことだ、と言いましたが、よっぽどアグレッシブな保護者でない限り、10歳の子供が何千万もする不動産を買う契約に同意をすることはないでしょう。
あるいは前回学んだ内容ですが、成年被後見人は同意があっても法律行為をすることができません。成年被後見人には判断能力がほとんどないと考えられているためです。
そのため、判断能力を備えた保護者に「代わりにやってもらう」ことが必要になります。これが代理権なのです。
例えば皆さんが幼いとき、学校に来ていく制服から習い事の申し込みまで、保護者の方にやってもらっているはずです。(全部自分でやってた!という人はテレビに出れるでしょう)
親が子供の世話をするのは当然といえるかもしれませんが、民法は個人主義、自己責任が原則なので、親子間であっても、人が誰かの法律行為を代わりにやってあげるには方便が必要なのです。民法ではこれを代理権と呼び、保護者に代理権を与えることで制限行為能力者を助けてあげられるようにしています。
代理権についてはまた詳しく学ぶ機会があるので、ここでは「代わりに法律行為をしてあげられる力」くらいに考えておいてください。
・追認権
今回初めて出てくるキーワードです。「ついにんけん」と読みます。(さすがに分かりますねw)
先ほどお話したように、制限行為能力者が保護者の同意を得ずに法律行為をした場合であっても、その法律行為をあとから認めてあげることで、有効にすることができます。これが追認です。言ってみれば「後からの同意」のようなイメージですね。
保護者が制限行為能力者の法律行為を「追認」した場合、その法律行為は当初から有効であったことになります。この場合でも法律行為は無事完了するわけですね。
この追認について、重要な点が3つあります。
その1.追認は制限行為能力者の取引相手(相手方といいます)に対してする必要がある
たとえば未成年者(太郎君)が母親の同意を得ずに、高価な時計を買ってきてしまった場合を考えましょう。皆さんは時計屋さんの気持ちになってみてください。
時計屋さんは太郎君が高級な時計を買いに来たことについて、少なからず不安に思っているはずです。「両親の同意はあるんだろうか、きちんと確認しておくんだったな。もし後日取消されたらどうしよう。」という風に、時計屋さんは不安定な地位に置かれている状態です。
これについて家で以下のようなやりとりがあったとしましょう。
太郎「お母さん、欲しかった時計買ってきたんだ」
母「え?あの10万円の時計を?」
太郎「うんそうだよ、もしかしてダメだった?」
母「うぅん…まぁいいわ、今回は認めてあげる。追認してあげるわ、はい!つ・い・に・ん♡」
仮にこんなやりとりが家でされていたとしても、時計屋さんは知りようがないということです。母親の太郎君への愛情は時計屋さんまで届くはずないわけで、時計屋さんは相変わらず不安なまま日々を過ごさなければなりません。
そこで、母親が追認をする場合は、太郎君に対してではなく時計屋さんに対してしなければならない、と定められています。
注意その2.一度追認すると、その行為は取消せなくなる。
これも時計屋さんの気持ちになるとわかると思います。「追認します」と言われて3日後に「やっぱり取消します」と言われると、時計屋さんとしては暴れたくなりますよね。
そんなわけで、一度追認した法律行為は取消すことができなくなります。初めから有効だったことになるんですから当然だ!くらいに考えてもらえば良いでしょう。
注意その3.追認の意思表示をしなくても、追認したものとみなされる場合がある。
追認の関係で最も出題の可能性が高いのがここです。民法には法定追認という規定があります。条文を見てみましょう。
(民法125条)
前条の規定により追認をすることができる時以後に、取り消すことができる行為について次に掲げる事実があったときは、追認をしたものとみなす。ただし、異議をとどめたときは、この限りでない。
一 全部又は一部の履行
二 履行の請求
三 更改
四 担保の供与
五 取り消すことができる行為によって取得した権利の全部又は一部の譲渡
六 強制執行
なんだか難しそうに見えますが、皆さんも法律の専門家になった暁には、全然知らない法律や省令の条文を日常的に読まなければならなくなります。気合で目を通してみてください。もちろん理解できないところがあるのは当然です。分かるところだけ雰囲気を掴む感じで今は十分です。
そして今のところ重要なのは一号と二号だけです。この後も何度か出てくる条文なのでここではさらっと説明します。
先ほどの時計屋さんがたまたま在庫切れだったものの、気の早い太郎君は購入契約書はサインをして、先にお金も払ってきたとします。
どんな家庭だ、という突っ込みはありますけどね。
その数日後に母親が「この間うちの太郎が注文した時計はまだ入荷しないのかしら?そろそろ届けてくださらない?」と時計屋さんに言った(履行の請求をした)場合、法定追認という効果が発生するのです。法定追認とは、母親が追認の「つ」の字も言っていなかったとしても、追認したのと同じことになる、というものです。
今回母親は時計屋さんに対して、時計を届けてください!と「履行の請求」をしています。時計屋さんからすれば、「この間はいきなり未成年者が時計を買いに来て不安だったけど、保護者から問い合わせが来たんだから、もう取引は有効だろう」と考えるのが普通です。この時計屋さんの期待を保護する意味で、追認そのものをしたわけではないが、結果的に追認したのと法律上同じ扱いをする、これが法定追認です。
ちなみに、みなされる、というのは、実際にそうしていなくても、法律上はそうしたのと同じ効果が発生することを意味します。たびたび出てくる言葉なので覚えておきましょう。
あるいは母親が時計の購入代金の全部または一部を時計屋さんに持っていった場合も同様に、法定追認となります。
時計屋さんとしては「母親がお金を払いに来たからもう大丈夫だろう」と考えますよね。この場合もやはり、信頼を裏切ってはいけないという意味で、きちんとした追認がされていない場合でも、追認された場合と同じく取引が有効になる。これが法定追認なのです。
それでは、ここまでのまとめです。
①保護者の基本的な権限は、同意権、取消権、追認権、代理権の4つである。
②追認とは、取消すことができる法律行為を、さかのぼって有効に確定させる行為である。
③追認は相手方に対してする必要があり、一度追認をすると取消すことができなくなる
④追認そのものをしていなくても、追認したとみなされる場合がある。
保護者の権利については先ほど4つ上げましたが、制限行為能力者ごとに違いがあるので、ここからは制限行為能力者ごとに保護者の権限をみていきましょう。
未成年者の保護者は法定代理人です。法定代理人とは基本的には両親だと思えば良いですが、事情があって両親がいない場合は未成年後見人というのが付きます。(未成年後見人はまたしばらくすると出てくるので、ここでは両親を想像すれば良いでしょう。)
法定代理人の権限は以下の通りです。
同意権…○
取消権…○
追認権…○
代理権…○
以上のように、基本的な4つの権限全てを持っています。したがって、難しいところはあまりないです。全部できる!と覚えておくだけで良いでしょう。
唯一注意が必要な点としては、取消権は未成年者本人も持っているということです。未成年者は一部を除いて単独で法律行為をすることはできませんが、取消しだけは単独ですることができるので、きちんと覚えておいてください。
また、この取消は未成年者の保護のための規定なので、相手方から取消をすることはできません。
「おいコラ、お前みたいな子供が俺んとこの高級時計つけてんじゃねぇよ、お前は未成年者だから取消しだ!」というのは認められないということですね。考えてみれば当然で、それだったら初めから売るなよ、という話です。
図にまとめると以下のようになります。
さて、法定代理人が取消権を使うと、法律行為はさかのぼってなかったことになるという話でした。
今度は違う例で、太郎君がお父さんの高級な壺を無断で骨とう品屋に売ってしまったとします。(売却利益は20万円という設定で)
これに気付いたお父さんが取消をした場合、何がどうなるでしょうか。
父「あ、すみません太郎の父ですけど。」
骨とう品屋「あぁこないだの坊やですね。壺は20万円で引き取らせていただきました。」
父「実はあれ、勝手に太郎が持ち出したもので、取消をしたいんですが。」
骨とう品屋「おや、そうでしたか、それでは壺はお返ししますので、20万円をお店に持ってきてください。」
という具合に、取消す場合はお互いの利益(骨とう品やは壺、父はお金)を返還することになります。
ただし、太郎君がこの20万円をすでにゲームセンターで5万円使ってしまっていた場合、物凄いことが起こります。何と取消しをした場合、現存している利益だけを返せばそれでよい、ということになるのです。
つまり、太郎君がゲームセンターで使ってしまった5万円を除いて、残りの15万円、つまり手元に残っている利益だけ返せば良いということになります。社会常識で考えると、5万円は父が補てんするべきなのですが、それをしなくて良いのです。
これは、判断能力が未熟な未成年者の保護のための規定だそうです。お父さんの壺を勝手に売り払った挙句ゲームセンターで5万円も使うような子供は保護の必要がない気がしますが、一応そういうことになっています。ちなみにギャンブルなどで使ってしまった場合も同じです。
一方で、太郎君がこの20万円のうち5万円でラジコンを買っていた場合は、20万円の現存利益がある、と判断されます。太郎君が使ってしまった5万円はラジコンに形を変えて残っていると考えられるからです。(私としてはパチンコよりラジコンにお金を使う方がよっぽど健全だと思いますが)
なお、不公平な気もしますが、相手方(骨とう品屋)の方は現存利益に限らず、利益の全てを返還する必要があります。未成年者を保護するための規定なので、未成年者にしか適用がないということですね。
ポイントをまとめます。
①未成年者について、取消をした場合の返還は現存利益の範囲に限られている。
②形を変えて残っている利益は返還する必要がある。
③単にギャンブルなどで浪費した場合は、現存利益なしと判断され、その分は返還しなくて良くなる。
成年被後見人の保護者は成年後見人です。名前が似ているので注意してください。「被」がある方が守ってもらう人、ない方が保護者です。
成年後見人の権限は以下の通りです。
同意権…×
取消権…○
追認権…○
代理権…○
同意権がないということに注意してください。これは成年後見人だけの特徴になります。
成年被後見人は保護者の同意があっても単独で法律行為ができないため、その保護者である成年後見人には同意権がない、ということです。
ちなみに、未成年者のときのように、返還利益に関して現存利益でOKという規定はありません。
その他、追認権に関する話や、代理権がある点なども、未成年者のときと同じです。
被保佐人の保護者は保佐人です。こちらも「被」のあるなしで守ってもらう方か保護者かが変わります。
保佐人の権限は以下の通りです。
同意権…○(13条1項所定の行為について)
取消権…○
追認権…○
代理権…△
なお、前回学んだように、同意権は13条1項以外の行為についても定めることができます。
保佐人の特徴は、代理権のところに△がついていることです。つまり、保佐人には基本的に代理権がないのです。これは未成年者の法定代理人や成年後見人との大きな違いになります。
被保佐人は判断能力が比較的「ある」と考えられており、基本的な法律行為は単独でできるとされているため、代わりにやってもらうよりも自分でやる方がメインになります。実際13条1項所定の行為以外はもともと単独で出来るわけですから、代理権を初めからつける必要もないということですね。
ちなみに、保佐人が代理権を持つには、別途取り決めが必要になります。
被補助人の保護者は補助人です。もうパターンがわかってきましたよね。「被」のない方が保護者です。
補助人の権限は以下の通りです。
同意権…△(13条1項所定の行為の一部について定めた場合)
取消権…△
追認権…△
代理権…△
他の保護者と違い、全ての権利に△がついています。これはどういうことでしょうか。
まず、代理権については保佐人と同様に、被補助人は単独で出来る行為が多いため、ついていないと考えればOKです。上の3つはどうでしょうか。
前回の内容を思い出してください。被補助人は13条1項所定の行為の一部のみ同意が必要ということでしたが、全てを単独ですることができる、と定めることもできましたよね。
その場合補助人は太鼓判を押してあげる必要がなくなるため、同意権を持たない保護者になるわけです。私の同意がなくっても全部一人でやっていいよ、という感じです。
そして、同意が不要な行為について、保護者は取消ができないんでしたね。(忘れていたという人は1.制限行為能力者の保護者の基本的な権利をもう一度読んでみてください)
さらに、追認は取消すことのできる行為を後から認めてあげるものでした。ということは、取消ができない=追認もできない(する必要がない)ということです。
同意権がない→取消権がない→追認権がない
という風に、ドミノ倒しが起こっていると理解してください。
念のため確認ですが、被補助人について、13条1項所定の行為の一部について、従来通り同意が必要な行為を定めた場合は、補助人には同意権、取消権、追認権が付いてくることは注意してください。
色々見てきましたが、まずは保護者の基本的な4つの権限の内容について理解しましょう。それができたら、制限行為能力者ごとの微妙な違いについて整理して、頭に入れていきます。
ここで語らなかった内容は応用編に入れる予定です。また次回お会いしましょう。